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『幻想水滸伝 ティアクライス』をメインとしたファンブログです。 はじめてお越しの方は、まず最初に、必ず「はじめに。」をご覧下さい。
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ティアクライスの二次創作も、いつかそのうちやるかもな、と思ってはいたのですが、最初にアップするブツが、思えば既に先月アタマにはセリフだけ書き入れて放置してるクロデキルドの4コマ2本ではなく、まさかドガとスフィールになるとは、自分ながらにこれっぽっちも思っておりませんでした。

若かりし頃のドガとスフィールについては、スフィールを仲間に出来た2周目の時にボヤンとあれこれ考えてたのですけどね……。
だけどやっぱり、いきなりドガとスフィールかって感じはどうにも否めずにいる私は実は主人公とロベルトとリウくんとルオ・タウが好きです。おっさんキャラだったらお医者が一番だったりしますが(ザフラーさんはステキすぎ)。

ともあれ、(若かりし頃の)ドガとスフィールのハナシです。
一発打ちな上に、しかも終わってません。更に続きはいつアップ出来るかも判ってません。すみません。
……だけどアップしちゃうのは、暫く置いたら気恥ずかしくなってお蔵入りにしちゃいそうな気がしたから。
物事、勢いが大事な時ってありますよね……(^^;)


 




 


 チオルイ山に、雪女が出る。
 いつからか、そんな噂が流れ出した。
 誰が言い出した事なのかは知れない。
 けれど噂は、いつしかチオルイ山の麓の村──テハでは知らぬ者などいないほどに広がり、広まった噂は村人たちを恐れさせた。
 雪女は、雪を操り吹雪を呼び、自在に雪崩を起こすという。
 更に雪女の噂がまことしやかに囁かれるようになってこっち、幾人もの村人が、チオルイ山に入ったきり、戻って来ないという事が立て続けに起きた。
 それに思えば、これまでに比べて降雪も多い。
 ──……ような、気がするだけなんじゃねえのか?
 もしも本当に去年や一昨年に比べて雪の量が多かったとしても、それは今年がたまたまそういう年だっただけの事だ。
 なにせ天気だ。
 チオルイ山の遥か上を渡り、留まる事なく大陸を流れていく風は、毎年毎年、その時次第で運ぶ雲の量を変える。
 ──だから今年は、これまでよりちょっとばかり雪雲が多いだけだろうよ。
 これまでと違うのは、“雪女”の噂があるかないかくらいの差しかない。
 けれど、
 ──雪女か。
 麓の村で、まことしやかに囁かれるその存在に、少しも興味がないといえば、嘘になった。
 ──もしもそんなヤツが本当にいるんだとしたら、この俺が退治してやろうじゃないか。
 テハの村より少しばかり山に入ったところにある小屋で、ドガはのそりと腰をあげた。
 どうあれ、村人たちは雪女を恐れている。
 ここのところ、村に降りるたびに怯えた顔で雪女の話をされる。
 このままでは安心して暮らせない、どうにかならないものかと溜息をつく村人たちの目は、誰もが遠回しに、ドガに助けを求めているようだった。
 ──まあ、そうだろうよ。
 俺以上に、山に詳しいヤツなんかいない。力にしたって、俺以上のヤツはいない。
 自負があった。
 それに、
 ──チオルイ山は、俺の庭だ。
 村人たちに頼られるのは悪い気もせず、己が庭と思う場所に得体の知れないモノが居着いたというのは面白くない。
 化け物退治の動機としては、十分だろう。
 身支度をして、小屋を出る。
 実際に今年の雪は深く、昨夜新しく積もったばかりの雪が、晴天の空の下、思うより暖かい朝日を浴びて、きらきらと光っていた。
 その光景は美しかったが、しかし、山に入るのには向かない。
 こういう日は、雪崩が起きやすい。山に入ったとしても、あまり深くは行かない事だ。
 ──まずは軽く様子見といくか。
 狩りのついでに留めよう。
 どのみち、狩りをしないわけにはいかない。それが生業なのだ。なにより、ガゼルの冬毛は高値がつく。
 テハの冬に、保温性に優れたガゼルの毛皮は必需品だ。
 ところが、雪女はおろか、目星をつけておいたガゼルの縄張りに入っても、目的の獲物の姿を見ない。
 予め仕掛けておいた罠に、小さなもさもさが一匹かかっている程度だった。
 ──腹の足しにもならねぇな……。
 それでも獲物が全くないよりはマシかと、罠にかかってもがく獣を抑えて首を捻って殺す。
 目を瞑っていても仕損じるはずもないような、どうという事もない、いつもの作業だった。
 その時、
「……なに、したの?」
 ふいにほそりと、若い娘の声がした。
 驚いて振り返れば、いつの間にか、1人の娘が立っている。
「…………」
 娘は白く、その面差しはほそりとした声の印象を違えず、それに、雪を掻いて歩く音などしなかった。
「……………」
 雪を掻き歩く音などしなくて当然だ。娘の周囲には、足跡がない。
 つまり、ふいに背後から声をかけてきたこの白い娘は、地面を歩かずにこの場に現れたという事になる。
 あり得ない話だ。
 だが、今し方殺した小さな獣ですら、雪は必ずその足跡を刻むというのに、娘の周囲には、
 ──俺の辿ったあとしかない。
「……その子、どうしたの?」
 瞠目し、息を飲むドガに、雪のように白い娘は、ほそとした声で言う。
「……どうしたの?」
「……こりゃあ、俺の獲物だよ」
 訊ねる娘に、手の中でぐったりとしている小さな獣を軽く挙げ、ドガは精一杯の虚勢で皮肉げに嗤った。
「山は今日、俺にこれだけの獲物しかくれないつもりらしいけどな」
 その代わり、雪女が現れた。
 ──コイツがきっと、雪女だ。
 間違いない。そうでもなければ、ここまで辿ってきたあとがないわけがないではないか。
 ──雪女。
 退治が出来れば、この冬一番の獲物になる。
 テハの村人の様子を思えば、この雪女の首は、最上のガゼル10頭分の毛皮くらいは稼ぎ出してくれるだろう。
 ──場合によっちゃあ、もっといくかもしれねぇ。
 村人の懸念を拭い去ってやるのにやぶさかではないが、しかしそこは人の身である。
 ある程度は感謝の気持ちを判りやすい形で表してもらえなければ、自分の命に関わってしまいかねない。
 まだこれといった相手を見付けたわけではないが、嫁だって欲しい。嫁を取るとなれば、何かと物入りにもなる。
 もっと手前の事をいえば、たらふくメシを食って酒も飲みたい。村の飲み屋には、それなりにツケも溜まっていた。
 いずれにせよ、金は要る。
「……えもの」
 娘が、小首をかしげた。
「……それ、もさもさ」
「…………あ?」
「もさもさ」
 娘が、ドガの手に吊された小さな獣を指さす。
「もさもさ」
 繰り返される獣の名に、ドガはようやっと、娘が名前の訂正をしている事に気付いた。
 どうも娘は、“獲物”の意味が解らないらしい。
「もさもさ」
「……ああ」
 再三の繰り返しにドガは頷き、笑顔で返し、
「このもさもさは、今日の俺の獲物だ」
「えもの」
 娘が、また首を傾げる。
「もさもさ」
「ああ、コイツはもさもさだ。つい先刻、俺の獲物になった。これから俺の、メシのタネになる」
「めしのたね」
「ああ、メシのタネだ。ところでアンタ、メシはまだか」
「めし」
「ああ、メシだよ。もしなんだったら、一緒にどうだ。メシを持ってないんなら俺の分を分けよう。つーても大したモンはねぇがな」
 解っているのかいないのか、どうにもほやんとした雰囲気の娘に、ドガはいかにも人良さげに笑い、けれど内心警戒しつつ、娘に向かって一歩、踏み出した。
 娘は、動かない。
 もう一歩。
 やはり娘は動かず、それどころか、内心の警戒を隠しつつ、一歩一歩、何気ない風を装って近付くドガに、ふと、笑みをみせた。
 ──赤ん坊みたいな顔しやがる。
 警戒している自分が、いっそ滑稽に思えてくるほどに。
 けれど、だからといって、警戒を解くわけにもいかない。
 ──コイツは、雪女だ。
 恐らく、間違いなく。
 ほどなく手を伸ばせば届くところまで近付いたが、娘の周囲には、やはり娘の足跡はひとつもなかった。
 雪に足跡がついていないのだから当然だが、娘のまとう服にも少しも雪はついていない。
 この娘がもしも仮に生きている人間であれば、あり得ない話だ。
「たいしたもん」
 娘が、赤ん坊のような笑顔のままで言った。笑顔が赤ん坊のようなら、声や口調は言葉を覚えたばかりの幼子のようだ。
 見た目は年頃の娘だが、頭の中身は随分とゆっくりしているらしい。
「ああ。大したモンはねぇな。だが独り身の野郎なんざそんなもんだ。もてなしっつーには貧相過ぎるが、雪山で行き会ったら手持ちの振る舞いをするのも礼儀ってヤツだ」
「もてなし」
「そうそう、おもてなしってヤツだよ」
 言ってドガはその場にどさりと腰を下ろし、使い古した背嚢から、用意してきた干し肉を出した。
「ほらよ」
「…………」
 娘は小首を傾げ、ドガが差し出した干し肉を受け取る。
 それを盗み見るようにしながら、ドガは自分の為に出した干し肉を囓り、そして不思議そうな顔で受け取った干し肉を見ていた娘は、ドガに倣ってそれを口に運ぼうとし、けれど、口に入れる前に眉を寄せる。
「どうした」
「……いらない」
「あ?」
「くさい。いや。いらない」
「…………」
 言って娘は干し肉をドガに返し、おもむろに傍らにしゃがむと、ひょいと雪を掬い上げて差し出した。
「おいしい」
「………………」
 ポカンとするドガに、娘は邪気ない笑顔で雪を差し出す。
「おいしい」
「………………」
「おもてなし」
「………………」
 雪山で行き会ったら、手持ちのものを振る舞うのは礼儀だと言った矢先だ。
 雪山で雪を食うなど、体を冷やすだけで良い事など何一つないし、良いことがないどころか、ヘタをすれば大変な事になってしまうのだが、ここで断るわけにもいかない。
 なにせ相手は雪女だ。
 ここで機嫌を損ねて吹雪だの雪崩だのを起こされては、それこそ大変な事になる。
 なにより、確実に仕留めたい。
 その為にこうして、ここに腰を下ろしたのではないか。
 せっかく自ら出向いてきてくれた獲物だ。この獲物を仕留めれば、上手くすれば夏辺りまで、遊んで暮らせるかも知れない。
 本当にそれくらいの収入が得られたとしても、やはり山には入るだろうが、それでも、明日の勘定をしつつ山からの分け前を祈り求めるのとは同じ狩りでも随分気持ちが違うだろう。
「ああ、どうもな」
 確実な成果の為、とにかく相手の油断を誘いたいドガは、娘が両手で掬い上げた雪を受け取り、口に運んだ。
 とはいえ、口に入れたのは舐める程度で、残りは取りこぼしたふりをして捨てたが。
 しかし、娘はそれでも満足だったようだ。
 ドガが食べるふりをして雪を捨てた事に気付かなかっただけかも知れない。
 どうあれ娘は振る舞いを受けたドガに嬉しげな笑顔を向け、
「おいしい」
「ああ。うん。けっこう旨いな」
 しれっと返したドガに、なお嬉しげに笑う。
「もっと」
 そして更に雪を掬い上げて勧め、けれどドガは、これを断った。
「すまんな。実は今、腹一杯なんだ」
「……いっぱい」
「ああ。腹が一杯で、すまんが今日は、これ以上のもてなしは受けられん」
「…………」
 娘が、途方に暮れたような顔をする。
「じゃあ、どうしよう」
「そうだな、どうしたもんかな」
 ほそと呟いた娘に、改めて警戒がないのを確認し、ドガは素知らぬ顔で考えるふりをし、それから、
「俺はあんたのもてなしを受けたが、あんたは俺のもてなしを受けてくれなかった」
「ごめん。でも、むり」
「いや、謝る事はねぇ。誰にだって無理な事のひとつふたつはあるもんだ。だがその代わり、そうだな、俺と友達になるってのはどうだ」
「……ともだち」
「仲良くしようってんだよ。どうだ」
「いいよ。する」
 娘が笑って頷いた。
「どうするの」
「どうって」
「なかよく」
「……そ……それは」
 笑顔のままで訊ねられ、困惑する。
 仲良くするのにどうするのかと訊かれても、どう答えて良いのか解らない。
「どうするの」
「ま……まぁ、そうだな……」
 取り繕いに干し肉を囓り、ドガは今度は本当に考え、少しばかり視線を泳がせ、その時、脇に置いた獲物のもさもさが視界に入った。
「……ああ、そうだ。名前だ」
「なまえ」
「あんたの名前は? なんていうんだ?」
 名前など、本当は知らなくても構わない。
 この娘は雪女に決まっているのだから、雪女で十分だろう。
 だが、曲がりなりにも友人関係を持ち掛けてまで相手の油断を確実なものにしようというのだ。
 名前のひとつも訊いておかねば不自然だろう。
「……なまえ」
 娘が小首を傾げる。
「ない」
「ナイ?」
「わたし、なまえ、ない」
「お前、名前を持ってないのか」
 つい眉を寄せて訊ねたドガに、娘は小首を傾げたまま笑う。
「うん、ない」
「……そりゃあ」
 つまり、今まで誰1人として、娘を呼ばなかったという事か。
「なくても、へいき」
「いや、それじゃ不便だ」
「ふべん」
「友達ってのは、お互いに名乗るところから始まるもんだ」
 ──たぶん。
「なまえ……ないとだめ? こまった。だったらわたし、ともだちになれない」
 ドガの言葉に娘は消沈の面持ちでするりと立ち上がり、
「──待て!」
 今の今、娘に逃げられても困るドガは、慌てて娘の手を掴んだ。
 雪のように白く華奢な手は氷の細工を思わせるほど冷たく、降り積もったばかりの雪のようにふわりと柔らかかった。
 このまま長く掴んでいては溶けて消えてしまいかねない感触に、ドガは一瞬手を放しかけたが、振り返った娘の顔に思い留まる。
「でもわたし、なまえ、ない。ともだちもむり」
「名前なら、俺がつけてやる」
「…………」
 急いて言ったドガに、娘はキョトンと小首を傾げた。
「つける?」
「ああ。俺がお前に名前をやろう。今、良いのを──……そう、そうだな。スフィール。スフィールってのはどうだ」
「スフィール」
「ああ、そうだ。今度から誰かに会ったらスフィールって名乗れ。どうだ、悪かないだろう」
「うん」
 大急ぎの思い付きで口にした名に、娘は少しはにかんだ色の嬉しげな微笑で頷き、けれど微笑は、すぐに消沈に戻った。
「どうした。気に入らないか」
「わたし、あなたにもらってばかり。ふこうへい」
 呟いて、娘はすとんとしゃがんだ。
 小さく華奢な白い手が、陽光にきらきらと輝く雪に触れる。
 もらってばかりは不公平だからと、ここでまた雪を勧められたら溜まらない。
「それじゃあ俺の名前はお前がつける。それでおあいこだ」
 雪を勧められたくないばかりに、ドガは慌てて提案し、やはり本当に勧めるつもりだったのか、娘は雪から手を放した。
「あなたも、なまえ、ない?」
「いや、あるにはあるが、お前の名前は俺が決めちまったからな。あんたも俺の名前を決めていい。考えるのが面倒なら名乗るが」
「じゃあ、わたしがきめる。おあいこ」
 空の色を映すほどに白い髪をさらりと揺らし、娘は心底嬉しそうに笑うと、じっとドガの顔を見詰めて言った。
「おにいさん」
「………………」
 ──それは名前じゃないだろう。
 言い返したかったが、娘は自分の命名に満足げな様子だ。
「わたし、スフィール。あなた、おにいさん。ね」
 ──まぁ、いいか。
 どうせ、暫くの間だけだ。
「ね」
「……わかった」
 顔を覗き込むようにして確認を求める娘に、ドガはその名を受ける事に決めた。

 

 ◇続く◇

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ドガの昔語りを表現しているものはないかと探しておりましたところ、たどり着きましてございます。

もっとも想像力をかきたてられる一幕であるように存じ、きわめて自分の想定したものと近かったため、思わずコメントさせていただきました。

涙腺がゆるみましてございます。

たびたびお世話になるかと存じますが、よろしくお願いいたします。
コウザ URL 2011/04/16(Sat)23:53:34 編集
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